差し筋の代わりにあと施工アンカーでも大丈夫か?
あと施工アンカーは改修工事や補強工事などでよく使われます。
あと施工アンカーは、国土交通大臣の告示によれば、「既存の鉄筋コンクリート造等の部材とこれを補強するための部材との接合に用いるものをいう」と定義されています。
あと施工アンカーには金属系のものと接着系のものがありますが、どちらも既存のコンクリートにドリルで穴をあけ、簡易に施工できることから重宝されています。
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実際の新築工事において、あらかじめ差し筋を施工することを忘れた場合や、工事変更により追加で立上り壁が必要になる場合など、あと施工アンカーが使われる場面があります。
しかし、建築基準法では、新築工事における主要構造部の構造部材としてあと施工アンカーの使用を原則認めていません。したがってその扱いには十分な注意が必要です。
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建築基準法では、構造耐力について、「建築物は、自重、積載荷重、積雪、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造でなければならない。」(第20条)としています。
具体的な技術基準については、建築基準法第36条に基づき、建築基準法施行令で定められています。しかし建築基準法施行令では、あと施工アンカーについての記載がないため、建築基準法施行令第94条に基づき、国交省の告示が出されています。平13国交告示1024号(平成18年2月28日告示改正)、及び告示別添「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」がそれにあたります。
製品(あと施工アンカー)の接合部の引張り及びせん断の許容応力度や材料強度は、上記告示に基づき国交大臣が指定した「指定書」に記載されており、それが構造計算の根拠の数値となります。
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あと施工アンカーの性能通りの引張耐力を得るためには、適切な施工が求められますが、問題はなかなか教科書のようには施工できないことです。
アンカーを差し込むための穴をドリルであける際、既存の鉄筋に当たってしまい所定の深さが確保できないことは日常茶飯事です。位置をずらして穴をあけたり、穴の角度をつけて既存鉄筋をかわしたりケースバイケースで対応しなければなりません。
また、既存コンクリートのコーン状破壊に考慮しなければならないため、アンカー同士の間隔とへりあき寸法には注意が必要です。
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参考資料として以下のものが挙げられます。
- 日本建築防災協会「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針同解説」
- 建築研究振興協会「既存建築物の耐震診断・耐震補強設計マニュアル2018年版」